東京湾

生きものと共にみる長期的なうつりかわり
表紙
小倉紀雄・風間真理・小泉正行 著

ISBN978-4-8052-0960-8

A5判/284頁

\3,400+税



概要

東京湾は日本の首都東京の「海の玄関」であり、国内外の多くの人々と物流の拠点である。また多様な生きものが棲み、それらと身近に接することもできるなど、世界の主要な湾の中でもユニークな存在である。そんな東京湾について、100年以上にわたる長期的な環境変遷を、人と生きものとのかかわりの視点でみていく。
本書は、70年前の東京湾での潮干狩り経験を持ち、水環境学の第一人者として本書のまとめ役である小倉紀雄氏、都職員として長年東京湾の水環境調査に携わった風間真理氏、東京湾と周辺水域で魚類や貝類などの水生生物調査に関わってきた小泉正行氏という、それぞれ異なる立場で東京湾を見つめ、調査し、調査結果から得たことを発信してきた3人による共著である。東京湾の昔、今、そして今後に関する、ありとあらゆる環境情報が詰まった1冊である。

著者

小倉紀雄(おぐら・のりお)
1940年、東京都生まれ。1967年、東京都立大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、東京農工大学名誉教授、日野市立カワセミハウス勤務(非常勤)。理学博士。専門は環境科学、水環境保全学、市民環境科学。
著書は『調べる・身近な水』(講談社、1987年)、『東京湾―100年の環境変遷』(編著、恒星社厚生閣、1993年)、『市民環境科学への招待―水環境を守るために』(裳華房、2003年)、『川と湖を見る・知る・探る―陸水学入門』(監修、地人書館、2011年)など多数。専門的な知見を、わかりやすい言葉で伝えることを心がけている。

風間真理(かざま・まり)
1950年、石川県金沢市生まれ。1974年、お茶の水女子大学理学部卒業。同年、東京都公害局。2011年、定年退職、水環境課非常勤。2019年、水環境課非常勤終了。学術博士、技術士(環境部門)、環境カウンセラー。
共著で『都市の中に生きた水辺を』(信山社、1996年)、『日本の水環境行政』(ぎょうせい、1999年)、『水環境の事典』(朝倉書店、2021年)など。東京の水環境行政一筋に従事し、行政のデータを活用すること、生き物の視点を水環境に活かすこと、市民と研究者と行政のパイプ役に、をモットーとしている。

小泉正行(こいずみ・まさゆき)
1950年、三重県生まれ。1973年、三重大学水産学部卒業。同年、東京都水産試験場。2022年、東京都島しょ農林水産総合センター非常勤終了。大島、八丈島、小笠原などの事業所で通算24年勤務したほかは、東京湾や都内河川の調査に関わる。
調査スタンスは現場第一主義。生物と環境との関係に注目しながら調査を進め、得られた知見を発信するように心がけている。

目次

 はじめに  小倉紀雄

第1章 東京湾との出会いとかかわり
 1.1 東京湾との70年  小倉紀雄
  1.1.1 稲毛海岸、いま・むかし
   (1)稲毛海岸での潮干狩り
   (2)一の鳥居と稲毛海岸のいま
  1.1.2 埋め立てにより造られた浜離宮庭園と佃島を訪ねて
   (1)浜離宮恩賜庭園のいま・むかし
   (2)佃煮の発祥の地―佃島
  1.1.3 東京湾での調査研究
 1.2 水環境と水生生物調査のデータをもっと活用してほしい  風間真理
  1.2.1 川から海へ、赤潮との出会い
  1.2.2 東京湾は生きている
 1.3 江戸前復活の鍵は浅場にあり  小泉正行
  1.3.1 伊勢湾から東京湾へ―干潟を初めてみた日
  1.3.2 八丈島から再び東京湾へ
  1.3.3 江戸前の復活と浅場の重要性

第2章 東京湾とはどのようなところか  小倉紀雄
 2.1 東京湾の範囲はどこまでをさすのか
 2.2 沿岸域の変貌―干潟の変遷と沿岸域の埋め立て
  2.2.1 むかしの沿岸・干潟域
  2.2.2 近年の沿岸・干潟域
  2.2.3 水際線の利用
 2.3 東京湾と流域の特性
  2.3.1 流域と港湾の利用
  2.3.2 水質
  2.3.3 生き物
 2.4 東京湾を世界や日本の主要な湾と比較すると
  2.4.1 米国の主要な湾との比較
  2.4.2 日本の三大湾との比較

第3章 水環境の長期的なうつりかわり  風間真理
 3.1 水質の視点から
  3.1.1 水質
   (1)東京湾の水質の水平分布(7月)
   (2)COD(化学的酸素要求量)
   (3)窒素・りん
   (4)底層DO(底層溶存酸素量)
   (5)透明度
   (6)クロロフィルa
   (7)水温
  3.1.2 流入負荷量
   (1)汚濁負荷量の削減
   (2)流達率
   (3)雨天時の流入負荷量
  3.1.3 有機汚濁削減のための方策
   (1)下水道の普及、下水道処理水質の向上
   (2)排水規制の徹底
   (3)浚渫
   (4)自然浄化能力の向上
  3.2 底質の視点から
   3.2.1 有機物質汚染
   (1)有機汚染度
   (2)有機汚泥の水へ及ぼす影響
   (3)底生生物による底質の評価
  3.2.2 底質の改善
  3.2.3 有害化学物質汚染
 3.3 水生生物の視点から
  3.3.1 プランクトンの生息状況とその推移
   (1)赤潮の発生状況と推移
   (2)青潮の発生状況と推移
  3.3.2 底生生物、付着生物、魚類、鳥類の生息状況とその推移
   (1)底生生物
   (2)付着生物
   (3)魚類
   (4)鳥類
  3.3.3 水生生物からみた内湾環境の推移
 3.4 東京湾の水環境の今後の課題

第4章 江戸前の魚は復活したのか  小泉正行
 4.1 昔の東京湾ではどのような漁業が営まれていたか
 4.2 江戸前とはどこか、江戸前の魚とは何か
 4.3 漁業と漁獲量の変遷
  4.3.1 東京湾における漁獲量の変遷
   (1)漁業権放棄と漁業従事者数の減少
   (2)近年の不漁要因は底質悪化
  4.3.2 東京都内湾における主要魚介類の漁獲量の変遷
   (1)漁業が盛んだった1961年まで貝類が圧倒的に多かった理由
   (2)分類群内の種による変動の違いについて
 4.4 環境のうつりかわりと魚貝類の推移
  4.4.1 東京湾に流入する河川の汚染状況
  4.4.2 河川の上中流域を代表するアユの再遡上
   (1)多摩川の稚アユ遡上数と環境改善との関係
   (2)浅場はアユのゆりかご
   (3)神田川に四十数年ぶりに稚アユが再遡上した理由
  4.4.3 河川下流域を代表する汽水性ヤマトシジミの復活
  4.4.4 東京湾奥で絶滅したと言われたハマグリの出現
 4.5 江戸前の復活をめざして
  4.5.1 覆砂による浅場造成が生物増殖に貢献したお台場海浜公園
  4.5.2 東京湾奥の負の現状―二枚貝とアマモの移植試験から
  4.5.3 「砂泥の回廊」の造成を
  4.5.4 情報収集の重要性
  4.5.5 江戸前の復活は「温故知新」のスタンスで

第5章 これからの東京湾
 5.1 森-川-海の流域の視点で総合的に考える  小倉紀雄
  5.1.1 水源林の保全
  5.1.2 緑地・農地の保全―雨水浸透の促進
  5.1.3 汚濁発生源の対策
  5.1.4 河川・用水・水路での対策
  5.1.5 河口・沿岸域での対策
   (1)干潟の微生物による脱窒量
   (2)アサリなど二枚貝による粒状有機物の除去
   (3)人工干潟での浄化能力
  5.1.6 東京湾の総合管理―1988年の提言など
 5.2 様々な課題の解決に向けて  小倉紀雄
  5.2.1 気温の上昇
   (1)東京湾を中心とした東京の温度分布
   (2)気温上昇の要因
   (3)気温の上昇に対する対策
  5.2.2 水温の上昇
   (1)東京湾表層水の水温分布
   (2)東京湾海水の水温変化
   (3)東京湾海水の水温上昇の要因
   (4)水温上昇による水生生物への影響
 5.3 保全と有効利用  風間真理
  5.3.1 2020年オリンピック・パラリンピックの会場としての利用と整備
  5.3.2 レクリエーション
 5.4 市民・行政・民間の協働による保全と再生  風間真理
   5.4.1 東京湾をめぐる市民等の動き
   (1)九都県市首脳会議環境問題対策委員会水質改善専門部会
   (2)東京湾岸自治体環境保全会議
   (3)東京湾環境情報センター
   (4)NPO法人 海辺つくり研究会
   (5)NPO法人 リトルターン・プロジェクト
   (6)東京湾海洋環境研究委員会
   (7)荒川クリーンエイド・フォーラム
   (8)一般社団法人 JEAN
   (9)みずとみどり研究会
   (10)運河を美しくする会
   (11)大森 海苔のふるさと館
  5.4.2 東京湾再生官民連携フォーラム
 5.5 これからの東京湾―望ましいすがたとは  小倉紀雄
  5.5.1 これまでの環境の変遷
   (1)人口の変遷
   (2)東京湾の海岸線の状況
   (3)水質の変遷
   (4)流入負荷量
   (5)東京湾流域における物質の収支
   (6)漁獲量
   (7)市民と行政の取組み
  5.5.2 東京湾の望ましいすがたとは
   (1)望ましいすがたとして、提案されてきた考え方
   (2)これからの望ましいすがたとは

 COLUMN1 海水の紫外吸収スペクトルとそれを規定する物質  小倉紀雄
 COLUMN2 紫外吸光度法による新しい有機汚濁指標の提案  小倉紀雄
 COLUMN3 東京湾の気候変動  小倉紀雄
 COLUMN4 多摩川でのアンモニア態窒素の変化と要因  風間真理
 COLUMN5 埋め立てと鳥  風間真理
 COLUMN6 マイクロプラスチックによる汚染  風間真理
 COLUMN7 東京湾奥に日本最大級のカキ礁が形成 小泉正行
 COLUMN8 ウナギの寝床と食事場は準備万端  小泉正行
 COLUMN9 東京湾に流下した仔アユが生き残るための方策  小泉正行
 COLUMN10 外来種ホンビノスガイの東京湾漁業への貢献度  小泉正行
 COLUMN11 江戸前のマハゼのオスはイクメン  小泉正行
 COLUMN12 干潟に棲む二枚貝は熱中症対策をしているのか?  小泉正行
 COLUMN13 東京湾奥に漂うクラゲたち  小泉正行
 COLUMN14 羽田空港前に来遊したブリの狂騒ぶり!?  小泉正行

 付表 聞き取り情報による東京湾と河川における生物と環境の変遷 小泉正行
 おわりに  小倉紀雄
 事項索引
 生物名索引
 著者紹介/写真の出典