絶滅危惧種の生態工学

生きものを絶滅から救う保全技術
表紙
亀山章 監修
倉本宣 編著

ISBN978-4-8052-0930-1

A5判/248頁

\2,800+税


概要

絶滅危惧種を絶滅危惧でない状態にすること、それが本書の究極の目的である。
絶滅危惧種の保全は、これまで分類学や生態学などの基礎学によって主に担われ、現実の世界を扱うというよりは、人々の意識の啓発を行うことに主眼が置かれてきた。しかし、生きものの保全や再生の実務に携わると、基礎学だけでは通用せず、現実の問題を解決する応用学が欠かせない。
本書は、生きものの存在が可能となる環境やランドスケープの構築を目指す応用学である生態工学に基盤を置く研究者たちが、絶滅危惧種の保全技術を体系的に取り上げ、典型的な事例と生態工学的なポイントを紹介する。絶滅危惧種保全の現場に関わる技術者、行政関係者、民間デベロッパーたちの座右の書。

監修者

亀山 章(かめやま・あきら)
1943年、東京都に生まれる。1968年、東京大学農学部卒業。厚生省国立公園局技官、信州大学農学部助教授、教授を経て、東京農工大学農学部教授ののち、同大名誉教授。現在、公益財団法人日本自然保護協会理事長。農学博士。専門は造園学、景観生態学、地域計画学、環境緑化工学、森林科学。
主な著書に、『緑地生態学―ランドスケープ・エコロジー』朝倉書店(共編著、1998年)、『生態工学』朝倉書店(編著、2002年)、『ミティゲーション―自然環境の保全・復元技術』ソフトサイエンス社(共編著、2001年)、『生物多様性緑化ハンドブック―豊かな環境と生態系を保全・創出するための計画と技術』地人書館(監修、2006年)、『自然再生の手引き』日本緑化センター(共編著、2013年)、などがある。
生物多様性保全の基礎的研究とその応用技術の開発における第一人者であり、80編に及ぶ学術論文と60編もの著書は、専門教育や技術者養成に役立てられている。

倉本 宣(くらもと・のぼる)
1955年、東京都生まれ。1983年、東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。博士(農学)。東京都庁造園技術職、明治大学農学部専任講師、助教授を経て、現在、明治大学教授。専門は植物生態学、生態工学、保全生態学、市民科学。日本造園学会賞(1997年)、日本緑化工学会賞技術賞(2007年)、第9回とうきゅう環境財団社会貢献学術賞(2017年)など、受賞歴多数。
主な著書に、『雑木林をつくる』百水社(共編著、1996年)、『エコパーク』ソフトサイエンス社(共編著、1996年)、『タンポポとカワラノギク』岩波書店(共著、2001年)、『環境市民とまちづくり1.自然共生編』ぎょうせい(共編著、2002年)、『自然再生―生態工学的アプローチ』ソフトサイエンス社(共編著、2005年)、『生物多様性緑化ハンドブック―豊かな環境と生態系を保全・創出するための計画と技術』地人書館(編著、2006年)、などがある。
研究成果を社会に還元すべく、市民と一体となった生物多様性の保全と再生の活動に取り組み、環境保全分野において多大な貢献をしている。

目次

まえがき/亀山 章

序―本書の目指すもの/亀山 章

第一部 絶滅危惧種の生物学
 第1章 絶滅危惧種の生物学/倉本 宣
   1.1 生物多様性と種
   1.2 絶滅とは
   1.3 レッドデータブックとレッドリスト
   1.4 絶滅の原因
 第2章 絶滅危惧種の保全と遺伝的多様性/佐伯いく代
   2.1 生存と進化の基盤としての遺伝的多様性
   2.2 遺伝的多様性を調べるためのアプローチ
   2.3 遺伝的多様性の情報を用いた絶滅危惧種の保全
   2.4 今後の展望
 第3章 絶滅危惧種の情報整備と利用/井本郁子
   3.1 絶滅危惧種の情報
   3.2 生物情報と地理情報(GIS)データ
   3.3 データベース整備の今後

第二部 絶滅危惧種の保全技術
 第4章 絶滅危惧種の保全と生態工学/大澤啓志・春田章博
   4.1 自然的・半自然的空間を扱う生態工学
   4.2 絶滅危惧種に対する配慮
   4.3 人材の育成と技術者の職能
 第5章 生息域内保全と生息域外保全/中村忠昌
   5.1 絶滅危惧種の保全における目標
   5.2 生息域内保全と生息域外保全
 第6章 生息域内保全
   6.1 生息域内保全の計画/八色宏昌
   6.2 生息域内保全の実践/中村忠昌
   6.3 生息域内保全のための環境ポテンシャル評価/日置佳之・中田奈津子
 第7章 生息域外保全
   7.1 飼育下での繁殖事業/堀 秀正
   7.2 植物の生息域外保全/田中法生
   7.3 ハビタットの造成による飼育・栽培/板垣範彦
 第8章 野生復帰・再導入/園田陽一
   8.1 野生生物保護から野生復帰へ
   8.2 野生復帰・再導入の考え方
   8.3 日本における野生復帰・再導入
   8.4 多様な主体の協働・連携と地域づくり
 第9章 モニタリング/徳江義宏
   9.1 はじめに
   9.2 順応的管理とは
   9.3 計画・事業の実施
   9.4 モニタリング調査
   9.5 モニタリング結果の評価と見直し
   9.6 モニタリングの体制

第三部 絶滅危惧種の保全事例
 第10章 ツシマヤマネコの交通事故対策/趙 賢一
   10.1 はじめに
   10.2 ツシマヤマネコの概要
   10.3 交通事故の現状と対策
   10.4 道路整備時の配慮事項
   10.5 交通事故対策の課題
 第11章 タンチョウとその保護活動/原田 修
   11.1 はじめに
   11.2 タンチョウとは
   11.3 タンチョウの保護
   11.4 日本野鳥の会のタンチョウ保護活動
   11.5 タンチョウ保護のこれから
 第12章 サンショウウオ類の保全対策/大澤啓志
   12.1 はじめに
   12.2 サンショウウオ類の生活史
   12.3 環境アセスメントにおける保全措置
   12.4 保全措置で留意すべき点
 第13章 ホトケドジョウの保護と生息地復元/勝呂尚之
   13.1 ホトケドジョウの生態
   13.2 ホトケドジョウの復元研究
   13.3 ホトケドジョウの保全活動
   13.4 ホトケドジョウの保全から水域生態系の保全へ
 第14章 絶滅危惧アメンボ類の保全/中尾史郎
   14.1 絶滅危惧のアメンボ類
   14.2 アメンボ類の保全と生態工学的な配慮
   14.3 生態工学的技術の普遍化
 第15章 湿地植物ヒメウキガヤの保全/春田章博
   15.1 はじめに
   15.2 絶滅危惧植物の保全措置の進め方
   15.3 絶滅危惧種ヒメウキガヤの生活史と生育環境
   15.4 ヒメウキガヤの移植による保全
   15.5 生育状態と生育環境の管理

第四部 絶滅危惧種の保全の制度と仕組み
 第16章 絶滅危惧種保全におけるステークホルダー/逸見一郎
   16.1 絶滅危惧種の所有者と管理責任者
   16.2 絶滅危惧種の保全にかかわるステークホルダー
   16.3 ステークホルダーとの合意形成の進め方
 第17章 絶滅危惧種保全の社会的条件/並木 崇
   17.1 はじめに
   17.2 絶滅危惧種の保全を進めるうえで必要な社会面・経済面への配慮
   17.3 4階層思考モデルを用いた事例の紹介
      ―島嶼地域における絶滅危惧種アオサンゴの保全
   17.4 持続可能性の浸透のために
 第18章 絶滅危惧種保全のための法制度/奥田直久
   18.1 種の保存法の制定まで
   18.2 種の保存法の成立
   18.3 種の保存法の概要
   18.4 絶滅危惧種の保全をめぐる法体系
   18.5 わが国の絶滅危惧種の保全にかかる法制度の現状と課題

 索  引
 執筆者一覧

執筆者(執筆順、所属は初版刊行時)

■監修者
亀山  章(かめやま・あきら):東京農工大学名誉教授

■編著者
倉本  宣(くらもと・のぼる):明治大学

■著 者
佐伯いく代(さえき・いくよ):筑波大学
井本 郁子(いもと・いくこ):地域自然情報ネットワーク
大澤 啓志(おおさわ・さとし):日本大学
春田 章博(はるた・あきひろ):春田環境計画事務所
中村 忠昌(なかむら・ただまさ):叶カ態計画研究所
八色 宏昌(やいろ・ひろまさ):景域計画株式会社
日置 佳之(ひおき・よしゆき):鳥取大学
中田奈津子(なかた・なつこ):前千葉市役所
堀  秀正(ほり・ひでまさ):井の頭自然文化園
田中 法生(たなか・のりお):国立科学博物館筑波実験植物園
板垣 範彦(いたがき・のりひこ):いきものランドスケープ
園田 陽一(そのだ・よういち):樺n域環境計画
徳江 義宏(とくえ・よしひろ):日本工営株式会社
趙  賢一(ちょう・けんいち):活、植物設計事務所
原田  修(はらだ・おさむ):(公財)日本野鳥の会
勝呂 尚之(すぐろ・なおゆき):神奈川県水産技術センター内水面試験場
中尾 史郎(なかお・しろう):京都府立大学
逸見 一郎(へんみ・いちろう):(一社)自然と文化創造コンソーシアム
並木  崇(なみき・たかし):WWFジャパン
奥田 直久(おくだ・なおひさ):環境省