ブルーカーボン

浅海におけるCO2隔離・貯留とその活用
表紙
堀正和・桑江朝比呂 編著

ISBN978-4-8052-0909-7

A5判/276頁

\3,200+税


概要

2009年、国連環境計画(UNEP)は、海草などの海洋生物の作用によって海中に取り込まれた炭素を「ブルーカーボン」と名づけた。陸上の森林などによって吸収・隔離される炭素「グリーンカーボン」の対語である。
近年、日本沿岸のアマモ場などが海中だけでなく大気中二酸化炭素を直接吸収すること、アマモ場の堆積物中で数千年もの間、無機化されずに隔離されることなど、これまで二酸化炭素の放出源とされていた沿岸域が、実は吸収源であったことがわかり、つまり「ブルーカーボン」の潜在能力の高さが証明された。本書では、二酸化炭素が大気から取り込まれ堆積物となるまでの物理化学的・生物学的プロセス、社会実装の実例、国際社会への展開までを報告。温室効果ガスの排出量削減のための様々な国際的取組みが行われている中、ブルーカーボンは、わが国にとって大きな切り札となる。

★2019年度「日本沿岸域学会 出版・文化賞」を受賞しました。

目次

 まえがき  堀 正和・桑江朝比呂

第1章 ブルーカーボンとは
―海洋が有する二酸化炭素の隔離・貯留機能の特徴 堀 正和
 1.1 はじめに
 1.2 ブルーカーボンの提唱
  1.2.1 ブルーカーボンとは
  1.2.2 UNEPレポート
  1.2.3 沿岸顕花植生域の現状
  1.2.4 吸収源となるその他の生態系
 1.3 海草藻場の特徴とブルーカーボン
  1.3.1 海草(うみくさ)とは―海洋植物の種類とその特徴
  1.3.2 アマモ―Zostera marinaの特徴
 1.4 ブルーカーボン・シンクの維持・向上・管理に向けて
  1.4.1 アマモ場の生物多様性と群集構造
  1.4.2 アマモ場の生態系管理
 1.5 おわりに―ブルーカーボン研究への期待にかえて

第2章 大気からのCO2の吸収
―吸収源としての沿岸浅海域の実証と新たな吸収メカニズムの解明 所 立樹・渡辺謙太
 2.1 はじめに
 2.2 大気―水間CO2ガス交換量の理論背景
  2.2.1 薄膜モデル(バルク式)
  2.2.2 バルク式における水中CO2分圧
  2.2.3 交換速度
 2.3 大気―水間CO2ガス交換量の測定方法
  2.3.1 バルク法による測定
  2.3.2 直接的な方法による測定
 2.4 沿岸浅海域におけるCO2ガス交換量の測定例
  2.4.1 北海道風蓮湖における複数の方法による測定
  2.4.2 海藻藻場による大気中CO2の吸収
  2.4.3 統計的解析方法
  2.4.4 石灰化・溶解反応と大気−水間CO2ガス交換
 2.5 海草藻場における未知の大気中CO2吸収プロセス
 2.6 まとめ

第3章 日本沿岸の藻場による有機炭素の生成
―その量的試算と課題 吉田吾郎・仲岡雅裕
 3.1 はじめに
 3.2 日本の藻場の面積とその分布特性
  3.2.1 藻場のタイプ
  3.2.2 主要藻場面積とその地理的分布特性
 3.3 日本沿岸の海草・海藻による炭素隔離量
  3.3.1 アマモ場
  (1)リーフ・マーキング法による草体生産量の測定
  (2)日本沿岸におけるアマモの草体生産量
  3.3.2 ガラモ場
  (1)現存量法による藻体生産量の測定
  (2)日本沿岸のホンダワラ類の生物量とその特性
  3.3.3 アラメ場とコンブ場
  3.3.4 日本沿岸の海草・海藻による炭素隔離量
 3.4 おわりに―今後の課題と懸念

第4章 堆積物における長期炭素貯留のしくみと役割 宮島利宏・浜口昌巳
 4.1 地球上の炭素循環のなかの海洋堆積物
 4.2 浅海域の堆積過程と海草藻場
 4.3 海洋堆積物における有機炭素の地理的分布
 4.4 海洋堆積物における有機炭素の安定性を支配する要因
 4.5 酸素濃度が有機炭素貯留に及ぼす影響
 4.6 海草藻場堆積物における有機炭素貯留
 4.7 海草藻場の有機炭素貯留機能に影響を与える諸要因
 4.8 堆積物中の有機炭素の起源判定法
 4.9 海草藻場堆積物における有機炭素貯留の意義

第5章 沿岸浅海域で隔離された炭素の行方
―藻場から深海底までの移動評価 阿保勝之・樽谷賢治・杉松宏一
 5.1 はじめに
 5.2 藻場内でのアマモ草体の分解・堆積
  5.2.1 アマモの落葉・沈降過程
  5.2.2 沈降したアマモ草体の細片化
  5.2.3 アマモ草体の分解
 5.3 アマモ草体およびアマモ由来有機物の流出
 5.4 アマモ場内でのアマモ起源有機炭素の行方
  5.4.1 アマモの成長・枯死過程のモデル化
  5.4.2 アマモ場内の物質収支(モデルの計算結果)
 5.5 藻場外へ流出したアマモの行方
  5.5.1 海洋数値モデル(移流拡散・分解・堆積)
  (1)海水流動
  (2)アマモ草体の流出、沈降、分解過程のモデル化
  (3)アマモ草体およびアマモ由来懸濁粒子の流出
  5.5.2 流出したアマモ由来有機物の行方
 5.6 瀬戸内海におけるアマモ場の炭素貯留機能

第6章 沿岸浅海域における気候変動の緩和と人為影響 桑江朝比呂
 6.1 はじめに
 6.2 浅海域の特徴
  6.2.1 浅海域における炭素貯留とCO2吸収との関係
  6.2.2 浅海域における炭素貯留
  6.2.3 浅海域が大気中CO2を吸収する条件
  6.2.4 浅海域が吸収源(大気中CO2を長期で正味吸収する)となる条件
 6.3 水中や生物中への炭素の貯留とCO2ガス交換
 6.4 人為影響を受ける浅海域が吸収源となる仮説
  6.4.1 下水処理と大気―海水間CO2ガス交換
  6.4.2 淡水流入、成層、貧酸素水塊と大気―海水間CO2ガス交換
  6.4.3 既往の現地調査研究からの証拠
 6.5 今後の課題
  6.5.1 ガス交換データの充実
  6.5.2 貯留された炭素の再評価
  6.5.3 下水処理を通じた気候変動の緩和
 6.6 おわりに

第7章 ブルーカーボンの応用と実例―横浜ブルーカーボン事業 信時正人
 7.1 はじめに
 7.2 まちづくりと地球温暖化対策
  7.2.1 横ぐしを刺す本部の立ち上げ
  7.2.2 「環境モデル都市」から「環境未来都市」へ
 7.3 横浜グリーンバレー構想
  7.3.1 グリーンバレー構想とは何か
  7.3.2 なぜ金沢区を舞台としたか
 7.4 横浜ブルーカーボン事業の始まり
  7.4.1 道志村とのカーボン・オフセット事業
  7.4.2 ブルーカーボンとの出会い
  7.4.3 事業開始に向けて
 7.5 横浜ブルーカーボン事業の概要
  7.5.1 事業の枠組みと目的
  (1)枠組み
  (2)目的
  7.5.2 社会実験の実施
  7.5.3 社会実験の結果と課題
  7.5.4 ブルーリソースの活用によるCO2削減量の算定
  (1)わかめの地産地消
  (2)海水熱源ヒートポンプへの更新
  7.5.5 アマモ場を対象としたブルーカーボンによるCO2吸収・削減量算定への挑戦
  (1)CO2吸収・削減量の定量化の考え方と算定方法
  (2)現地観測によるアマモ現存量の把握
  (3)現地調査結果および定量化の試行
  (4)今後の課題
 7.6 今後の展望
 7.7 おわりに

第8章 ブルーカーボンの今後―地球環境問題への挑戦 桑江朝比呂・堀 正和
 8.1 はじめに
 8.2 ブルーカーボンに関連する科学技術的な根拠の強化に向けて
  8.2.1 実態把握の必要性
  8.2.2 国際的な枠組みとの協調を視野に入れた観測技術の開発
 8.3 ブルーカーボンにかかわる国際的枠組み
  8.3.1 気候変動にかかわる国際的枠組み―UNFCCCとIPCC
  8.3.2 沿岸管理にかかわる国際的枠組みの形成
  8.3.3 国際的枠組みから地域活動へ
 8.4 残された課題と今後の取り組み
  8.4.1 ブルーカーボン以外の緩和技術との比較
  8.4.2 公共財政の逼迫とオフセット・クレジット
  8.4.3 オフセット・クレジットの要件
  8.4.4 計測されるべき炭素貯蔵庫
  8.4.5 計測手法のガイドライン化
 8.5 気候変動の適応策としてのブルーカーボンの可能性
  8.5.1 今後の社会情勢の変化と自然資本を活用した海岸防御
  8.5.2 ブルーカーボンを活用した気候変動への適応―侵食・浸水抑制といった減災効果
 8.6 まとめ
 ブルーカーボンFAQ

 ブルーカーボン研究への期待  小池勲夫 
 刊行に寄せて  Carlos M. Duarte 

 索引 
 執筆者一覧 

執筆者(執筆順、所属は初版刊行時)

■編著者
堀  正和(ほり・まさかず):水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所
桑江朝比呂(くわえ・ともひろ):港湾空港技術研究所/(一社)ブルーカーボン研究連携機構

■著 者
所  立樹(ところ・たつき):水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所/港湾空港技術研究所
渡辺 謙太(わたなべ・けんた):港湾空港技術研究所
吉田 吾郎(よしだ・ごろう):水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所
仲岡 雅裕(なかおか・まさひろ):北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 厚岸臨海実験所
宮島 利宏(みやじま・としひろ):東京大学大海洋研究所
浜口 昌巳(はまぐち・まさみ):水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所
阿保 勝之(あぼ・かつゆき):水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所
樽谷 賢治(たるたに・けんじ):水産研究・教育機構 西海区水産研究所
杉松 宏一(すぎまつ・こういち):水産研究・教育機構 水産工学研究所
信時 正人(のぶとき・まさと):潟Gックス都市研究所/横浜市温暖化対策統括本部参与
小池 勲夫(こいけ・いさお):東京大学名誉教授
Carlos M. Duarte(カルロス・デュアルテ):サウジアラビア・アブドラ王立科学技術大学 紅海研究センター