野生動物の餌付け問題

善意が引き起こす? 生態系撹乱・鳥獣害・感染症・生活被害
表紙
畠山武道 監修
小島望・高橋満彦 編著

ISBN978-4-8052-0900-4

A5判/336頁

\3,500+税

概要

野生動物へ餌を与える行為は動物に親しみ、自然を保護する行為として肯定的に捉えられ、行き過ぎた事例があったとしても個人の趣味やモラルに帰され、問題視されることはほとんどなかった。しかし近年、餌付け行為が野生動物を人間の生活圏へ接近させ、動物の行動変化や感染症の蔓延、鳥獣害などの様々な問題を引き起こす原因となっていることが指摘されている。特に、急増する鳥獣害は、取り残しや投棄された農作物やゴミに集まってきた動物がその味を覚えたこと、つまり「非意図的餌付け」に起因している。

本書では、野生動物に餌を与えることによって生じる諸問題を「餌付け問題」と名づけ、自然環境への影響のみならず、人間社会への影響についても議論を行う。また、様々な事例を通じて、その整理と検証を試み、餌付け規制への取組みと展望を述べる。

監修者

畠山武道(はたけやま・たけみち)
1944年、北海道旭川市生まれ。1972年、北海道大学大学院法学研究科博士課程公法専攻修了(法学博士)。北海道大学法学部助手、立教大学法学部専任講師、同学部助教授を経て、1983年、同学部教授。その後、北海道大学法学部教授、北海道大学大学院法学研究科教授、上智大学大学院地球環境学研究科教授、早稲田大学大学院法務研究科教授を歴任、2015年、早稲田大学を退職。現在、北海道大学名誉教授。
専門は行政法、環境法。環境訴訟など、日本の自然保護法、環境法の第一人者である。
主な著書に、『考えながら学ぶ環境法』三省堂(2013年)、『アメリカの環境訴訟』北海道大学出版会(2008年)、『自然保護法講義』北海道大学図書刊行会(第2版、2004年)、『アメリカの環境保護法』北海道大学出版会(1992年)、『はじめての行政法』三省堂(共編著、第3版、2016年)などがある。

編著者

小島 望(こじま・のぞむ)
1971年生まれ。1995年、麻布大学獣医学部環境畜産学科卒業、1998年、帯広畜産大学大学院修士課程修了、岩手大学大学院連合農学研究科博士課程修了。博士(農学)。北海道教育大学非常勤講師、東京大学大学院農学生命科学研究科COE特別研究員などを経て、現在、川口短期大学ビジネス実務学科准教授。
主な著書に、『<図説>生物多様性と現代社会:「生命の環」30の物語』農山漁村文化協会(2010年)、『環境教育辞典』教育出版(分担執筆、2013年)、『野生動物保護の事典』朝倉書店(分担執筆、2010年)、『ようこそ自然保護の舞台へ』地人書館(分担執筆、2001年)、『検証 士幌高原道路と時のアセス』北海道新聞社(分担執筆、2000年)などがある。
大学院時代から、エゾナキウサギの生態調査を通じて自然保護活動に関与、生物多様性保全を目的とする保全生態学を専門とし、徹底した現場主義を貫く。近年、民俗学に興味を覚え、主に四国や九州の中山間地の集落で「人の暮らしと川との結びつき」に注目した調査を行なっている。

高橋満彦(たかはし・みつひこ)
1966年生まれ。1989年、慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、企業勤務とNGO活動をしながら、早稲田大学大学院法学研究科に社会人入試で入学、2005年、単位取得満期退学。2005年、富山大学人教育学部助教授、現在、同大学人間発達科学部准教授。修士(法学)、環境法修士(米国)。専門分野は環境法、自然保護法。
主な著書に、『移入・外来・侵入種―生物多様性を脅かすもの』築地書館(分担執筆、2001年)、翻訳書に『鳥はどこで眠るのか』文一総合出版(共訳、1997年)、『鳥たちの私生活』文一総合出版(共訳、2000年)、などがある。
少年時代を米国で過ごし、その頃からの鳥好きで、日本野鳥の会でも長年にわたって活動する。幅広い環境法の中でも、主に野生動物の保護、生物多様性保全に関わる分野を研究、米国、ケニアなどのWildlife lawも調査研究し、「風土に根ざした自然保護」の実現に取り組む。

目次

 巻頭言 畠山武道
 はじめに 小島望

第T部 餌付け問題とは何か
 第1章 餌付けによる野生動物への影響 小島望
 第2章 非意図的餌付けと絶滅危惧種への餌付け 小島望

第U部 餌付けによる生態系バランスの崩壊
 第3章 意図的・非意図的餌付けに起因するニホンザルの行動変化と猿害 白井啓
 第4章 イノシシへの餌付けとその影響 小寺祐二
 第5章 ガンカモ類への餌付けが湖沼の水質に及ぼす影響 中村雅子
 第6章 巻貝放流によるホタルの餌付け問題 齋藤和範

第V部 餌付けによる疾病リスク
 第7章 キタキツネの餌付けとエキノコックス症発生リスク 塚田英晴
 第8章 白鳥飛来地の「観光餌付け」と鳥インフルエンザの危機管理 小泉伸夫
 第9章 出水のツル類の給餌活動と疫病リスク 葉山政治
 第10章 餌付けがもたらす感染症伝播
     ―スズメの集団死の事例から 福井大祐・浅川満彦
 第11章 観光地における水鳥の窒息事故
     ―食パンがオオハクチョウの咽頭部を塞栓 吉野智生・浅川満彦

第W部 希少野生動物の餌付けに伴う問題
 第12章 シマフクロウへの給餌と餌付け 早矢仕有子
 第13章 給餌と「野生」のあいまいな関係
     ―コウノトリの野生復帰の現場から考える給餌の位置づけの見取り図 菊地直樹

第X部 具体的な餌付け防止対策
 第14章 世界遺産知床におけるヒグマの餌付け防止対策 中川元
 第15章 伊豆沼・内沼における水鳥類への餌付け対策の取り組み 嶋田哲郎
 第16章 広島市のハト対策 本田博利

第Y部 餌付け問題の法規制と今後の展望
 第17章 餌付けに関わる法規制と政策 高橋満彦
 第18章 野生動物と人間社会との軋轢の解決に向けて
     ―餌付け問題総括 小島望

巻末資料:餌付けを規制する条例一覧 高橋満彦・田村麻里子

おわりに 高橋満彦 

索引

執筆者一覧

執筆者(五十音順、所属は初版刊行時)

■監修者
畠山武道(はたけやま・たけみち):北海道大学名誉教授

■編著者
小島 望(こじま・のぞむ):川口短期大学ビジネス実務学科

高橋満彦(たかはし・みつひこ):富山大学人間発達科学部

■著者
浅川満彦(あさかわ・みつひこ):酪農学園大学獣医学群

菊地直樹(きくち・なおき):総合地球環境学研究所 研究部 地域環境知プロジェクト

小泉伸夫(こいずみ・のぶお):農業・食品産業技術総合研究機構

小寺祐二(こでら・ゆうじ):宇都宮大学雑草と里山の科学教育研究センター

斎藤和範(さいとう・かずのり):北海道教育大学旭川校/フリーランスキュレーター

嶋田哲郎(しまだ・てつお):(公財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団

白井 啓(しらい・けい):(株)野生動物保護管理事務所

塚田英晴(つかだ・ひではる):麻布大学獣医学部

中川 元(なかがわ・はじめ):(公財)知床自然大学院大学設立財団

中村雅子(なかむら・まさこ):包み屋(くるみや)/元国立環境研究所

早矢仕有子(はやし・ゆうこ):札幌大学地域共創学群

葉山政治(はやま・せいじ):(公財)日本野鳥の会

福井大祐(ふくい・だいすけ):(特非)EnVision環境保全事務所

本田博利(ほんだ・ひろかず):元愛媛大学法文学部

吉野智生(よしの・ともお):釧路市動物園