川と湖を見る・知る・探る

陸水学入門
表紙
日本陸水学会 編 村上哲生・花里孝幸・吉岡崇仁・森和紀・小倉紀雄 監修

ISBN978-4-8052-0838-0

A5判/204頁

¥2,400+税

概要

前半は基礎編として川と湖の話を、後半は応用編として今日的な24のトピックスを紹介し、最後に日本の陸水学史を収録した陸水学の総合的な教科書。川については上流から河口までを下りながら、湖は季節を追いながら、それぞれ特徴的な環境と生物群集、観測・観察方法、生態系とその保全などについて平易に解説した。

編者

日本陸水学会
日本陸水学会は1931年6月に創設された、湖沼、河川、地下水、温泉等内陸部のあらゆる水域に関して、地球物理学、地球化学、生物学、地理学、環境科学などの側面から総合的に研究を行おうと志す研究者の集団である。この陸水に関する学術の進歩、普及、応用をはかることを目的とし、この目的を果たすために大会・総会・例会を開催し、学会誌として和文誌「陸水学雑誌」と英文誌「Limnology」を発行している。会員数は約1000名。

目次

はじめに  小倉紀雄
第一部 川と湖を見る・知る・探る
 第1章 川を見る・知る・探る  村上哲生
   はじめに〜川へ行こう!
     川の水はほんのちょっぴり
    川へ行く前に
    地図の中で川を調査する
   1 第1日目〜森から川へ
    川の水はどこから来るのか?
     森が水をつくる?
     流量を測ろう
    水質を測ろう
   2 第2日目〜渓流の水生昆虫
    水生昆虫の採集
    水生昆虫の生息密度
    水生昆虫の餌は落ち葉
    川に落ちた葉の運命
    フライ・フィッシング
    水生昆虫は夜の川を流れる
   3 第3日目〜ダム
    ダム・ダム湖
    ダム湖の中で起きること
    ダムの下流で起きること
    ダムとどう付き合うか
   4 第4日目〜中流
    付着藻類
    付着藻類の機能
    付着藻類を食う者
     川の1日
    川灯台、聖牛、霞堤
   5 第5日目〜都市の川
    上水道―川水を飲み水に
    下水道―汚れた排水を川に返す
    現代の水処理の課題
    都市という特殊な世界の生き物
   6 第6日目 川から海へ
    河口、汽水域、感潮域
    河口の水の流れを追跡する
    岸辺のヨシ原の中で
    干潟
    干潟での浄化
    海へ
   おわりに〜川を良くするために声を上げよう

 第2章 湖を見る・知る・探る  花里孝幸
   はじめに〜湖は一つの独立した生態系
    湖の環境は閉じている
    主要生物はプランクトン
    湖と生態系生態学
   1 湖ってどんなところ?
    湖の誕生と寿命
    湖に棲んでいる生物たち
    湖の水質汚濁と窒素・リン
    季節で変わる湖水の動き
   2 春〜生物活動が活発になるとき
    湖が濁るのは珪藻のしわざ
    やがて水は澄み、次は緑色に濁る
    動物プランクトンや水草にも変化が
   3 夏〜不均一な環境がつくられる季節
    陸上と違い、湖では春より生産量が落ちる
    湖面と湖底で大きく異なる環境
    ミジンコは1日のうちで浮いたり沈んだり
    ミジンコ幼体は表水層から動かない
    魚の捕食から逃れるための日周鉛直移動
    夏に頭を尖らせるミジンコ
    魚や水草たちの夏
   4 秋〜冬ごもりの準備をする生物たち
    再び循環期へ
    厳しい環境を生き抜くための休眠卵
    冬ごもりを始める生物たち
   5 冬〜湖の環境を大きく変える氷
    氷の下の静かな世界
    温暖な地では冬に循環期となる
   6 浅い湖〜水質汚濁問題を抱えやすいところ
    浅い湖は成層しない
    浅い湖は汚れやすい
    水質汚濁で生物が増える
    浅いが故に、景観も環境も大きく変わる
    寒冷地の浅い湖で起こる「冬殺し」
   おわりに〜湖の生態系は地球生態系の縮図

第二部 陸水学の今がわかるトピックス24
 Topics1 湖沼や河川に見る温暖化―気候変動と陸水  新井正
 Topics2 湖沼の酸性化	辻彰洋
 Topics3 人工の小規模止水域であるため池の特徴と保全  近藤繁生
 Topics4 水田と氾濫原の生物多様性  西野麻知子
 Topics5 富栄養化の進行と底質環境の悪化―オニバスの絶滅要因を探る  角野康郎
 Topics6 アオコの毒性と飲料水への影響・安全性  朴虎東
 Topics7 安定同位体に聞く生態系の物語  吉岡崇仁
 Topics8 安定同位体が明らかにした富栄養化の歴史―琵琶湖  吉岡崇仁
 Topics9 森と川と海のつながり  鎌内宏光
 Topics10 官民一体となった流域管理―赤谷プロジェクトの挑戦とその波及  藤田卓・朱宮丈晴
 Topics11 河川整備に住民の声を反映させるために  宮本博司
 Topics12 バイカル湖の湖底堆積層が物語る1000万年以上の環境変動  河合崇欣
 Topics13 陸水生態系における生物多様性の危機と再生の理念  國井秀伸
 Topics14 モク採りと里湖	平塚純一
 Topics15 道楽からサービス業へと変わりゆく河川漁業  山本敏哉・梅村じゅん二
 Topics16 都市に翻弄される川―利根川  吉田正人
 Topics17 首都圏を流れ東京湾に注ぐ大都市河川―多摩川  渡邊泰徳
 Topics18 日本最長の川―千曲川(信濃川)  沖野外輝夫
 Topics19 ダムと河口堰問題に揺れる川―木曽三川  村上哲生
 Topics20 ワンドとヨシ原再生への取り組み―淀川  小俣篤
 Topics21 琵琶湖をめぐる「はしかけ」活動  大塚泰介
 Topics22 琵琶湖における農業濁水問題  谷内茂雄
 Topics23 水質浄化が進んだ湖で起きた新たな問題―諏訪湖  花里孝幸
 Topics24 湖の富栄養度の指標としての漁獲量  花里孝幸

第三部 日本の陸水学史  沖野外輝夫
 1 日本近代陸水学の幕開け
 2 湖沼学初期の研究、湖盆、水温と水質
 3 日本陸水学会と国際理論応用陸水学会の創設
 4 フォルブスとフォーレル(生態系概念の創始)の提示から現代へのつながり
 5 水質汚濁と汚水生物学
 6 地理学的研究
 7 河川に関する陸水学的研究
 最後に

Column 日本における陸水学研究の変遷

付録 もっと詳しく知るために  村上哲生
 1 水環境を調べる
 2 生物の名前と生活を調べるための図鑑
 3 川や湖をよく知るための読み物・教科書・辞典
 4 国や自治体から、川や湖の情報を得る
 5 陸水学会〜川や湖に興味を持つ人たちの集まり

おわりに  村上哲生
引用・参考文献(図の出典)一覧
索引(事項索引・生物名索引・人名索引)
執筆者一覧