自然再生ハンドブック

Handbook of Nature Restoration in Japan: Guidelines and practices
表紙
日本生態学会 編
矢原徹一・松田裕之・竹門康弘・西廣淳 監修

ISBN978-4-8052-0827-4

B5判/280頁

\4,000+税

概要

自然再生事業とは何か。
なぜ必要なのか。
何を目標にして、どのような計画に基づいて実施すればよいのか。
生態学の立場から、自然再生事業の理論と実際を総合的に解説し、全国各地で行われている実施主体や規模が多様な自然再生事業の実例について、成果と課題を検討する。 市民、行政担当者、NGO、環境コンサルタント関係者、研究者、学生必携の実践的な解説書。

目次

 目次

本書を読む方へ

第1章 自然再生事業とは
 1.1 なぜ自然再生事業が必要か?
  1.1.1 なぜ自然を守るのか?
  1.1.2 生態系サービス
   (1)供給的サービス
   (2)調節的サービス
   (3)文化的サービス
   (4)基盤的サービス
  1.1.3 自然に対する四つの責任
   (1)人間が持ち込んだ種の脅威を除く責任
   (2)人間が減らした種を回復させる責任
   (3)人間がつくったものを壊す責任
   (4)生態系の構成要素としての人間の責任

 1.2 自然再生に関する制度・事業の動向と課題  
  1.2.1 自然再生が政策上位置づけられた背景
   (1)自然環境をめぐる状況の変化
   (2)地域での自然再生の動きと政策上の位置づけ 
  1.2.2 自然再生推進法の制定と自然再生の実施状況
   (1)自然再生推進法制定に至る経緯
   (2)自然再生推進法の特徴
   (3)自然再生推進法の概要
   (4)自然再生事業の実施状況
  1.2.3 新たな自然再生の展開に向けて
   (1)第三次生物多様性国家戦略と自然再生
   (2)政策評価と法施行後5年のレビュー
   (3)今後の自然再生の方向

第2章 「自然再生事業指針」の解説
 2.1 自然再生事業の対象
  チェックポイント1 五つの自然要素に配慮した目標設定を行うこと
   解説(1)「種」に着目した目標設定  
       事例1 チスジノリに注目した安室川自然再生事業
     (2)「群集」に着目した目標設定
       事例2 「全種保全」を目標に掲げた九州大学生物多様性保全事業
     (3)「生態系」に着目した目標設定
       事例3 九州大学新キャンパス用地における森林再生と地下水保全
     (4)「生態系のつながり」に着目した目標設定
       事例4 釧路湿原におけるハンノキ林の拡大
     (5)「人と自然のかかわり」に着目した目標設定

 2.2 基本認識の明確化
  チェックポイント2 基本認識を明確にし、関係者間で共有すること
   解説
  チェックポイント3 将来予測に基づいて再生事業の目標を設定すること
   解説
       事例5 荒川太郎衛門地区自然再生事業
       事例6 コウノトリ野生復帰推進事業

 2.3 自然再生事業を進めるうえでの原則
  チェックポイント4 種の保全に関する3原則を守る
   解説
       事例7 兵庫県加古川市北長池におけるヒメコウホネ群落の保全・再生
  チェックポイント5 自然の回復力を最大限に活用する
   解説
       事例8 アザメの瀬自然再生事業における生物の移入
  チェックポイント6 諸分野間の協働を促し、伝統を尊重する
   解説 
       事例9 知床世界遺産地域科学委員会の構成
       事例10 伝統的技術の重要性

 2.4 順応的管理の指針
  チェックポイント7 順応的管理によって不確実性に対応する
   解説

 2.5 合意形成と連携の指針
  チェックポイント8 関係者の間での合意形成を実現し、関連する取り組みとの連携をはかる
   解説
       事例11 知床世界遺産地域における合意形成
       事例12 高丸山千年の森での多様な主体間の合意形成と連携

 2.6 事業を進めるうえでの留意点
     (1)一貫して必要なもの
     (2)全体構想段階での指針
     (3)個別実施計画段階での指針

第3章 	自然再生事業の実例
 3.1 釧路湿原の自然再生事業
  3.1.1 事業の背景と必要性
   (1)釧路湿原の歴史的変遷
   (2)釧路湿原が直面する危機
   (3)釧路湿原自然再生事業に至った経緯
  3.1.2 釧路湿原自然再生事業の原則と目標
   (1)自然再生を実施するための10原則
   (2)対象区域設定をめぐる対立と合意
   (3)事業の目標設定
  3.1.3 事業の具体的内容
   (1)達古武沼地区におけるカラマツ人工林の自然林化
   (2)久著呂川流域における河床低下防止と沈砂対策
  3.1.4 今後の課題―なぜ釧路湿原自然再生事業の進展は遅いのか

 3.2 釧路川の再蛇行化計画
  3.2.1 事業の背景
   (1)開発から保護への転換
   (2)河川法の改正
  3.2.2 事業の必要性―釧路湿原の変化
  3.2.3 事業の目標
   (1)釧路湿原再生の全体目標
   (2)蛇行河道復元の目標
  3.2.4 蛇行復元の試験地の生態系
  3.2.5 止水域の生態系
  3.2.6 事業計画の具体的内容
   (1)釧路川の蛇行河道復元計画
   (2)計画上流部の農地への影響
  3.2.7 今後の課題

 3.3 霞ヶ浦における湖岸植生の保全・再生の試み
  3.3.1 事業の背景
  3.3.2 事業の必要性
   (1)絶滅危惧植物アサザの危機
   (2)湖岸植生の衰退要因
  3.3.3 事業の目標と湖岸植生再生手法の検討
   (1)場所の選定と目標像の設定
   (2)再生の手法:湖岸植生帯
   (3)再生の手法:アサザ個体群
  3.3.4 再生事業の成果と課題
   (1)湖岸植生帯の回復
   (2)アサザ個体群の回復
   (3)消波施設の損傷
  3.3.5 順応的管理

 3.4 宍道湖・中海の自然再生事業の現状と課題
  3.4.1 事業の背景
   (1)事業地の概要
   (2)宍道湖西岸と中海大井地区の植生湖岸の造成
   (3)「自然再生センター」の設立 
  3.4.2 「中海自然再生協議会」の設立―初の民間主体の自然再生協議会
  3.4.3 総務省による自然再生事業の政策評価
  3.4.4 今後の課題

 3.5 八幡湿原自然再生事業
  3.5.1 事業の背景
   (1)八幡湿原
   (2)霧ヶ谷湿原
   (3)事業に至るきっかけ
  3.5.2 事業の必要性
   (1)湿原生態系の再生
   (2)なぜ湿原生態系なのか
   (3)もう一つの役割
  3.5.3 事業の目標
   (1)牧場造成前の霧ヶ谷
   (2)再生事業以前の霧ヶ谷
   (3)再生事業の目標
   (4)自然再生の基本方針
  3.5.4 事業の内容
   (1)導水実験
   (2)土木工事の実施
  3.5.5 今後の課題
   (1)安全性の立証
   (2)技術の標準化
   (3)維持体制づくり
   (4)地域づくり
  
 3.6 大台ヶ原自然再生事業
  3.6.1 事業の背景
  3.6.2 事業の必要性
  3.6.3 大台ヶ原における自然再生の目標と取り組みの基本的考え方
  3.6.4 事業の具体的内容
   (1)森林更新の阻害要因の推定
   (2)シカによる植生被害防止対策
  3.6.5 今後の課題

 3.7 高丸山千年の森づくり事業での住民参加による自然林再生
  3.7.1 事業の背景と必要性
  3.7.2 事業の目標―自然林再生の目標設定と計画策定
  3.7.3 事業の具体的内容
   (1)指定管理者「かみかつ里山倶楽部」による運営とそれに至る経緯
   (2)植栽の実施
   (3)モニタリングによる課題抽出
  3.7.4 今後の課題―順応的な「高丸山千年の森づくり」に向けて
   (1)モニタリングを実施するための枠組みづくり
   (2)モニタリング結果の管理への反映
   (3)「協働による運営」から「住民による自立的運営」へ

 3.8 小笠原自然再生計画
  3.8.1 事業の背景
  3.8.2 自然環境の保全と再生に関する基本計画とその実施状況
   (1)小笠原の自然環境の保全と再生に関する基本的考え方
   (2)島ごとの目標と対策の方向性
   (3)外来種ごとの対応方針
   (4)島づくり・仕組みづくり
  3.8.3 小笠原における自然環境の保全と再生の課題
   (1)私有地における自然再生・外来種対策
   (2)自然環境の保全・再生に関する研究の中核となる研究機関の設立
   (3)海域の保全・再生を陸域と関連づける

 3.9 東京湾三番瀬自然再生計画
  3.9.1 事業の背景
   (1)三番瀬埋め立て計画撤回までの歴史
   (2)三番瀬円卓会議による再生計画案づくりのプロセス
  3.9.2 再生事業の必要性
  3.9.3 三番瀬再生計画案の目標
  3.9.4 三番瀬の自然再生を巡る論点
   (1)漁場改善と外来生物の導入
   (2)残された干潟・浅瀬の評価
  3.9.5 三番瀬における自然再生の課題
   (1)埋め立て中止に伴う未解決の政治的課題
   (2)海岸保全と干潟再生の矛盾
   (3)河川からの土砂・淡水の供給の回復

 3.10	石西礁湖自然再生事業
  3.10.1 事業の背景と必要性
  3.10.2 再生事業の目標と基本的考え方
  3.10.3 再生事業の内容
   (1)全体構想とマスタープラン
   (2)専門家の関与・貢献
   (3)協力体制の構築
   (4)多様な主体間の信頼
   (5)モニタリング
   (6)次世代を育てる
  3.10.4 今後の課題

 コラム 広域対応・全国的な対応が必要とされる課題

 3.11	アザメの瀬自然再生事業
  3.11.1 事業の背景と必要性
   (1)松浦川の環境の変遷と現状
   (2)アザメの瀬地区の現況および過去の状況
  3.11.2 事業の目標
  3.11.3 事業の具体的内容
   (1)目標達成のための方法
   (2)計画の概要
   (3)順応的管理の原則に基づく計画の変更
   (4)効果の評価のための工夫:公募研究
  3.11.4 完成後の状況と今後の課題

 3.12	生きものブランド“源五郎米”再生事業
  3.12.1 事業の背景
  3.12.2 事業地の特徴
  3.12.3 事業の目標
  3.12.4 事業の具体的内容
  3.12.5 今後の課題

 コラム 農生態系における生物多様性保全

 3.13	安室川自然再生事業
  3.13.1 事業の背景
  3.13.2 事業の推進
  3.13.3 事業の目標設定
  3.13.4 事業の具体的内容
   (1)自然再生事業において得られた知見
   (2)理論と実践のリンク
   (3)河床を撹乱する三つの方法
  3.13.5 今後の課題と教訓

 3.14	小清水原生花園における原生花園再生事業
  3.14.1 事業の背景
   (1)小清水原生花園の立地
   (2)国定公園指定の頃の原生花園
  3.14.2 事業の必要性―自然の再生に取り組む前の原生花園
  3.14.3 事業の目標―自然の再生を目指す
  3.14.4 事業の具体的内容―野焼き事業開始以後の原生花園
  3.14.5 今後の課題

 3.15	阿蘇草原の維持・再生の取り組み
  3.15.1 事業の背景と必要性
   (1)人と人間の営みが創った人文景観
   (2)単相な草原も、多様な環境と生物の宝庫
   (3)生業の場、生活の場としての草原
   (4)忍び寄る草原危機の足音
  3.15.2 事業の目標
  3.15.3 草原景観維持・再生に向けての取り組み
   (1)地域住民と都市住民の共同作業
   (2)食べ物に「草地保全」ブランドを
   (3)地域で見出すバイオマス
   (4)次世代の担い手づくりを模索
  3.15.4 今後の課題
   (1)阿蘇草原保全への環境支払いに向けて
   (2)コーディネータ機能に期待
  3.15.5 おわりに

 コラム 火を使って草原を再生する

 3.16	深泥池の自然再生の現状と課題
  3.16.1 事業の背景―深泥池の価値
  3.16.2 事業の必要性―深泥池生物群集の保全と劣化の経緯
  3.16.3 事業の目標
   (1)集水域管理と生物群集管理の目標
   (2)外来魚除去対策の目標
  3.16.4 事業の具体的内容
   (1)集水域の排水系統管理
   (2)集水域の森林管理
   (3)池の植生管理
   (4)個体群動態モデルによる外来魚の順応的管理
  3.16.5 今後の課題

巻末資料 自然再生事業指針

あとがき

事項索引

生物名索引

執筆者一覧