トゲウオ、出会いのエソロジー

行動学から社会学へ
表紙
森 誠一著

ISBN4-8052-0714-0

四六判/224頁

\2,300+税



幼い頃川遊びで出会ったトゲウオに魅せられて研究者となった筆者は,ひたすら観察を積み重ね,その分布や生活史,生態,繁殖期の個体間関係などを明らかにしてきた.本書はその総まとめであるとともに,日本の自然の衰退と生息環境の悪化により減少の一途を辿るトゲウオ類の喘ぎ声に何とか答えようと,地域と共に実践してきた保護活動について熱く語る.

トゲウオについてもっと理解を深めたい方へ
関連サイト=「イトヨの里」


目次
序文 面白うて、やがて悲しき……愛媛大学名誉教授 水野信彦
はじめに――“はりんこ”の目から

第一章 “はりんこ”との出会い
 一 初めの“出会い”
  ある契機――川の中から
  川を挟んで――「刷り込み」形成
  小さな水槽と一冊の本
  湧き水の風景
 二 はりんこ学入門
  “はりんこ”の仲間たち
  生活史案内
  トゲの話
  どこに棲んでいるか――減少する生息地
  湧き水の魚
  湧水の存在意義――二つの生息地
  生活する場

第二章 トゲウオ学の周辺
 一 分類の問題
  イトヨとトミヨ
  学名について
  ハリヨの学名
 二 世界のトゲウオ学
  トゲウオ国際シンポジウム
  一九六七年――二つの研究
  ウォートンさんのこと
  トゲウオ研究の今――一九八〇年代から
  隣人の存在

第三章 ハリヨの世界から
 一 卵をめぐって
  大卵少産か小卵多産か?
  大きい卵を少なく産む
  卵サイズと親の世話
  繁殖への努力
  繁殖への配分と営巣回数
 二 二つのハリヨ
  サイズの大小
  色違いと鱗板
  生態的二型
  ナワバリサイズと巣の卵数
  営巣の成功

第四章 “出会い”――雄と雌の関係
 一 愛のかたち
  赤い顔色
  鱗がない半裸身
  ナワバリ――愛ゆえに
  結婚の条件――家作り
  ハリヨ美人
  厳しい夫婦関係
 二 横恋慕する雄たち
  卵泥棒
  もてる雄ともてない雄
  卵食い
  自己の子孫をいかに多く残すか
  どの行動を選んだら得か
  “経済的個体”の進化

第五章 エソロジーとの“出会い”
 一 エソロジーの今昔
  ティンバーゲンの「四つのなぜ?」
  赤は興奮の色
  行動は連鎖する
  行動の内と外
  行動の機能と進化
 二 もう一つの問題――エソロジーから
  動物のことば
  行動連鎖における文脈
  恋心の内情
  気分の問題――刺激の蓄積性逆立ちの意味
  ジグザグ・ダンスの実際
 三 目に見えない部分――エソロジーへ
  動機づけ
  全か、無か――行動は一つしかできない
  数量化への道
  エソロジーから
  エソロジーの今後――Not Fade Away

第六章 社会学との“出会い”
 一 行動のとらえ方
  媒介としての行動
  「行動の社会的文脈」とは
  社会学のロジック
  全体と個
  エソロジーの“見えざる手”
 二 “出会い”から“関係”へ
  関係をいかに捕捉するか
  映画『どん底』から
  個体の役割
  営巣場所における個体間関係
  始まりとしての“出会い”

第七章 自然の中の私、私の中の自然
 一 野外にて
  周囲の目
  研究スタイル
  田中のおばさん
  大ハリヨを採る
  春採湖のイトヨ
  死にそうになった!? 釧路湿原
 二 保護の話
  減少の一途
  遠い昔でなく、少し前に
  いい川
  川の変容
  自然との折り合い
  地域への展望
  “いのち”の水

あとがき――ハリヨの“まなざし”から